武の杜

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書籍『空手の理』柳川昌弘著(福昌堂)

 この本を手にしたのは高校生の頃。高校の空手道部に属し、全空連式の空手を日々熱心に稽古しながらも、競技中心の空手に疑問を持ち、理想の空手を求めていたところに偶然出会いました。

 異色の達人、柳川昌弘先生の最初の空手理論書です。幼少時代の不幸な事故が原因で重度の障害を患った先生が、空手の達人となるまでの半生とそこへ至るための数々の鍛錬法と体験に裏打ちされた独特の空手上達法が綴られています。初版は1991年とありますから、27年も前の作品となります。2007年には新装版も発行されていますから、息の長い正しくロングセラーなのだと思います。

 実際に先生の修行過程と巻末の『生き方の理』は単純に読み物としても非常に面白く、空手実践者に限らず、広く全ての方に是非読んでいただきたいと思うほど多くの示唆に富んでいます。

 江戸時代の剣豪『針ヶ谷夕雲』の名や彼の辿り着いた境地である『相抜け』などの一般的には耳慣れない武術用語の著述もあり、私の場合は剣豪伝記や他の古流武術系の先生方の著作にまで手を伸ばす切っ掛けともなりました。

 一読すると、空手実践者は先生の壮絶な半生や想像を絶する鍛錬法、数多くの超人的なエピソードに目を奪われ、先生に強い憧れを抱く一方で、先生の凄まじい体験をなぞらなければ、柳川武道空手は身につけられないのではないかと絶望してしまうかもしれません。

 しかし、そのような信じられない沢山の逸話や怪力養成法についての著述は、その後巻を重ねるごとに減っていき、純粋な技術論にシフトしてきていることを考えると、先生はそのような無理・無茶をしなくとも御自分の域に達することは十分に可能であると仰っているように思えます。

 技術的には、空手の上達に繋がる基礎体力と専門的体力の養成法や倒せる突きの実相とそこに至るための鍛錬法、変化技の解説と具体例が紹介されています。いずれも量ではなく質の追求こそが大事との思いが貫かれていて、ついつい練習量を問題にし勝ちな修行者にはとても参考になると思います。

 より詳細な技術解説にシフトした次巻『続・空手の理』と合わせて読まれることをお勧めします。