武の杜

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書籍『一撃必倒への道』柳川昌弘著(福昌堂)

柳川理論はついに禁断の聖域へと突入した

 空手修行者にとって「一撃必倒」は正に永遠のロマンというべきものでしょう。多くの先達が「一撃必倒」を目指し修練を重ね、そこに至るための鍛錬法を公開してきましたが、それらは柳川先生がいう「必倒の威力」に偏ったものが多かったのではないでしょうか。柳川先生が提唱する「一撃必倒」とは、「必倒の威力」に「必中の技術」を兼ね備えたものであるといいます。本書は月刊空手道に3号(1999年7月号〜9月号)にわたって掲載された記事をまとめ、加筆修正された「必倒の威力」と「必中の技術」を同時に成り立たせる技術の段階的養成法について書かれた柳川先生の空手理論書第4弾です。初版は2000年4月となっています。

 「一撃必倒」の第一歩として「手腕を伸ばす力で突くために、初速は早いが、その後の加速性が乏しく、突き終わるまでの時間がかかる一般的な空手の突き」を「素人の突き」、それに対して「初速こそ遅いが、その後急激に加速し、突き終わる瞬間が最高速となり、突き終わるまでの時間が短い突き」を「玄人の突き」というように両者の質の違いを定義した上で、「玄人の突き」に至るための段階的な基本稽古、マキワラ鍛錬の要点を解説されています。この「玄人の突き」の特徴こそ、命中率に乏しい弾道弾ではなく、誘導弾的な攻撃を可能とする条件そのものといえるでしょう。

 武道空手の要ともいうべき「正中線」、「居着かぬ足捌き」、「浮き身」、「腰の切り戻し」等の数々の理を内包している形、ナイハンチの解説では、形の挙動の説明だけでなく、各挙動ごとの気構え、心構え、身構えの3つの視点で書かれていて、『続・空手の理』のナイハンチの説明とはまた一味違ったものになっています。

 最後は強力な前拳突きの養成から始まり、相手の攻撃に対し、その前拳突きで「先の先」でカウンターを取る稽古を経て、前拳突きに限らず、あらゆるタイミング(「先の先」だけでなく、「対の先」、「後の先」も)でカウンターを取れるようにしていくという組手の段階的上達法が紹介されています。第3段階以降は自身と同じように「先の先」でカウンターを取ろうとしている相手を破るための稽古、さらにそれを破るための稽古というように、誰かより強いというような相対的な強さを求めるのではなく、「昨日の自分に今日は勝つ」といった絶対的な強さの積み重ねに至り、その稽古の在りようが古の剣豪が天狗と稽古した末に極意に達するといった逸話の真相であるとの解説はなるほどと唸らせられました。

 今回は挿入写真のほとんどについて、柳川先生ご本人がモデルとなっています。

 まえがきにあるとおり、本書は空手の初・中級者にとっては難しい内容かもしれません。しかし、目指す先を知ることも大事なことだと思います。その習熟度合いに関わらず、是非ご一読いただきたいと思います。