武の杜

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書籍『武術で知る心身不離の世界 井桁崩しから四方輪へ、そして・・・・・・』甲野善紀著(合気ニュース)

井桁術理からの新展開

 前著『甦る古伝武術の術理─井桁崩し──その誕生と展開』から続く甲野善紀先生の術理本第2弾です。故スタンレー・プラニン氏が聞き手となって、甲野先生の技の進展・経過を伝える手法は前作と同じです。初版は1994年12月です。

 井桁術理でヒンジ運動、ワイパー運動のような支点が固定された単純な円運動を否定していた甲野先生が、松林左馬助無雲が開いた夢想願立の伝書『願立剣術物語』との出会いを切っ掛けに、円運動の再検証にとりかかり、胸の前に玉をつくるように正中面を横から見て半月状に立てる縦アーチと左右の肩から胸を通る横アーチからなる『四方輪』の術理の誕生から展開の様子が伺えます。

 前作もそうであったように、鹿島神流の国井善也道之師が自分の胸の前で下に払い落とすだけでボクシングや空手などの突き技に対して、相手を下へ潰してしまった話に始まり、松林左馬助が将軍徳川家光の前で演武し、感激され、大変名誉のある褒美を頂いたことや、女中や弟子に自分へのいたずらをけしかけ、それを尽く躱す話、捕物話、柳の枝を投げ上げて、十三に切断した話、飛び回るハエを小刀で切り落とす話、肥田春充翁の目隠しにおもちゃの弓矢で的をはずさない話、起倒流の加藤有慶が相撲取りの挑戦を退ける話、靴屋の間下庄一氏の話など数多の逸話が綴られ、読み物としても大変面白いです。

 技術的な詳細解説はあるものの前回同様、写真が少ないので、それを理解体得することは難しいかもしれません。しかし、甲野先生の上達の過程を見せてくれるこのシリーズは武道修行者にとって、益するところが多いと思います。漫画家のみやわき心太郎先生の数コマのイラストも難解な術理理解の一助となるでしょう。『四方輪』は一見窮屈な姿形に見えますが、その窮屈さ故に育つ感覚があるのだと思います。そういう意味で『四方輪』は動きを質的に変換するために身体を縛る型ということができるのだと思います。